「アフターピル(緊急避妊薬)」は、避妊の失敗後や予期せぬ性交渉の後に使用される医療用医薬品です。
「アフターピルは不妊に繋がるのでは?」と不安に思う方もいます。
本記事では、アフターピルと不妊の関係について医学的な見解をお伝えします。適切な知識を身につけ、緊急避妊に関する不安を解消し、自分の身体と将来のためによりよい選択をしましょう。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の医薬品の使用を推奨するものではありません。医薬品の使用は必ず医師の指示に従ってください。
アフターピルで妊娠を防ぐ仕組みと薬の作用

アフターピルは避妊に失敗した際や避妊せずに性交渉をした後に服用することで、妊娠を防ぐために処方される医薬品です。通常の経口避妊薬(低用量ピル)とは異なり、一時的に使用する薬です。
アフターピルはホルモン剤によって排卵を遅らせたり、受精卵の着床を妨いだりすることで妊娠を防ぐとされています。すでに着床している場合には効果が期待できないため、中絶で使用される薬とは異なります。
アフターピルについての正しい理解と医師の指導のもとでの適切な使用が、望まない妊娠を防ぐために大切です。
アフターピルの服用と不妊の関係について
アフターピルの服用は不妊に繋がるという誤解が広がっていますが、現在までの医学的研究では根拠は確認されていません。
アフターピルに含まれるホルモン成分は、服用後数日間で体内から排出されるとされ、長期的な生殖機能への影響は認められないことが示唆されています。
世界保健機関(WHO)や日本産科婦人科学会も、アフターピルの使用が将来の妊娠能力に悪影響を及ぼすという証拠はないとしています。アフターピルを服用した後も、通常の排卵周期は回復し、生殖機能に永続的な変化は生じないという見解が示されています。
参考:WHO Fact sheet on the safety of levonorgestrel-alone emergency contraceptive pills
参考:日本産科婦人科学会 緊急避妊法の適正使用に関する指針
参考:厚生労働省「緊急避妊薬ファクトチェック」
アフターピルを過去に使用した女性と使用したことのない女性の間で、妊娠率に有意な差はないというデータも報告されています。アフターピルと不妊の間に因果関係を示す証拠は現時点では見つかっていません。
参考:Endler M, et al. Contraception. 2022, 109
避妊や緊急避妊について不安や疑問を感じるのは自然なことですが、医師に相談し、医学的情報に基づいて判断することで、適切な避妊方法を選択しましょう。
アフターピルの効果について
アフターピルの効果は、服用するタイミングによって変わるとされています。性交渉後できるだけ早く服用すれば、より高い避妊効果が期待できます。日本産科婦人科学会の指針によると、効果の目安は以下のとおりです。
日本産科婦人科学会の指針
- 24時間以内:約95%
- 48時間以内:約84%
- 72時間以内:約58%

参考:一般財団法人日本医薬情報センター(JAPIC)|緊急避妊剤レボノルゲストレル錠
参考:公益社団法人 日本産婦人科学会 |緊急避妊法の適正使用に関する指針
引用:一般社団法人 京都府薬剤師会|アフターピル
性交渉後24時間以内に服用した場合、約95%の確率で妊娠を防ぐ可能性があるとされていますが、時間が経過するほど効果は低下するとされています。
72時間(3日)を過ぎると効果はさらに下がる可能性があるため、できるだけ早く医療機関を受診するか、オンライン診療を利用して医師の診察を受けることが大切です。
アフターピルの種類
日本で使用されているアフターピルは主に3種類あり、それぞれ成分や効果の持続時間が異なります。それぞれの薬の特徴は以下のとおりです。
アフターピルの種類と特徴
種類名 | 主成分 | 服用タイミング | 特徴・違い | 国内承認状況 |
---|---|---|---|---|
ノルレボ(レボノルゲストレル) | レボノルゲストレル | 性交後72時間以内 | 副作用が少なく、WHOのエッセンシャルドラッグ指定。排卵抑制や子宮内膜増殖抑制で避妊。 | 承認済み |
エラワン(エラ) | ウリプリスタール酢酸エステル | 性交後120時間(5日)以内 | 服用期間が長い。排卵抑制・子宮頸管粘液変化・子宮内膜増殖抑制で避妊。 | 未承認 ※一部クリニックで処方可 |
プラノバール(ヤッペ法) | 中用量ピル(ノルゲストレル+エチニルエストラジオール) | 性交後72時間以内(2回服用) | 副作用(吐き気・嘔吐)が多い。古い方法。 | 承認済み(中用量ピルとして) |
※「マドンナ」「ポスティーノ」などの海外製アフターピルも一部のクリニックで処方されていますが、日本では未承認です。
レボノルゲストレル製剤は、一般的なアフターピルの一つで、性交渉後72時間以内の服用が推奨されています。1回の服用で完結するため、使用方法が簡単なことが特徴です。
一方、ウリプリスタール酢酸エステル製剤は、性交渉後120時間(5日)以内まで効果がある可能性があるとされています。レボノルゲストレル製剤と比較してやや長い期間効果を発揮する可能性が期待されます。特に、性交渉から時間が経過している場合に医師によって選択される薬です。
どちらの薬剤も医師の処方が必要であり、自分の体質や状況に合わせて医師と相談しながら適切な薬剤を選ぶことが大切です。
アフターピルはあくまで緊急避妊法であり、通常の避妊法の代わりにはならないことを理解した上で、医師の指導のもとで使用しましょう。
アフターピルの服用に伴う可能性のある副作用
アフターピルの服用後に一時的な副作用が現れることがあります。副作用は通常一過性であり、数日で自然に治まることが多いとされていますが、個人差があります。
報告されている副作用としては、以下のような内容があげられます。
- 吐き気
- 嘔吐
- 頭痛
- めまい
- 疲労感
- 一時的な不正出血
- 次の月経周期の変化
症状は通常、体内のホルモンバランスが一時的に変化することによるものと考えられています。
副作用の発現率は個人差がありますが、レボノルゲストレル製剤では約20〜30%の方に何らかの副作用が見られるという報告があります。
ウリプリスタール酢酸エステル製剤も同様の副作用プロファイルを持つとされていますが、吐き気の発現率はやや低いという報告もあります。
参考:緊急避妊剤 レボノルゲストレル錠
参考:Creinin MD, et al. Obstet Gynecol. 2006;108(5):1089-97
副作用が心配な場合は、服用前に医師に相談しましょう。また、服用後2時間以内に嘔吐した場合は薬の効果が十分に得られない可能性があるため、再度医師に相談することが推奨されています。
副作用について不安がある場合は、必ず処方医に相談してください。
アフターピル服用後の妊娠について
アフターピルを服用したにもかかわらず妊娠した場合、胎児への影響を心配される方もいます。
現在までの研究では、アフターピルの服用が胎児の発育異常や先天性疾患のリスクを高めるという明確な証拠は報告されていません。
参考: 緊急避妊法の適正使用に関する指針(平成28年度改訂版)
レボノルゲストレル製剤もウリプリスタール酢酸エステル製剤も、既に着床した胚には作用しないとされており、妊娠を中断させる効果は期待できません。
すでに妊娠が成立している場合には、アフターピルを服用しても胎児への直接的な影響は少ないとされています。
アフターピルの頻繁な服用をおすすめしない理由と対処法

アフターピルは医師が処方する緊急時の避妊法として位置づけられていますが、通常の避妊法として定期的に使用することは一般的に適切ではありません。
アフターピルの特性を理解した上で、日常的な避妊方法との使い分けることが大切です。
副作用が起こる可能性があること
アフターピルは緊急時の避妊手段として処方されますが、一時的な対処法であるため、繰り返しの使用は体への負担が増す可能性があると考えられています。
アフターピルに含まれるホルモン量は、通常の低用量ピルよりも多く設定されていることが一般的です。そのため、頻繁に服用すると吐き気、頭痛、めまいといった副作用が出現する確率が上昇する可能性があります。また、月経不順や不正出血などの症状も生じやすくなり、体調管理が難しくなる場合もあります。
女性の中には、アフターピルの副作用に対して特に敏感な方もいます。例えば、偏頭痛の既往がある方では、アフターピル服用後に頭痛が強くなる場合があるという報告もあります。
頻回の使用は、体への負担を増加させる可能性があることを理解しておきましょう。
妊娠の可能性がゼロにならないこと
アフターピルは高い避妊効果が期待できるとされていますが、完全に妊娠を防ぐことを保証するものではありません。最も効果的な使用条件(性交渉後24時間以内の服用)でも約95%の効果率とされており、5%程度の妊娠の可能性が残るとされています。
服用のタイミングが遅れるほど効果は低下し、72時間以内では約58%まで効果率が下がります。アフターピルに頼るたびに一定の妊娠リスクを背負う可能性があります。頻繁に使用するほど、確率論的に妊娠する可能性も高まるという点も認識することが大切です。
アフターピルは最後の手段として位置づけ、より確実な避妊法を日常的に実践することで、望まない妊娠のリスクを低減する可能性が高まります。
頻回に使う場合は低用量ピルなど他の避妊方法の活用を医師に相談
アフターピルを頻繁に使用する状況にある場合は、より計画的で効果的な避妊方法について医師に相談することが望ましいです。日常的な避妊法を活用すると、アフターピルの頻回使用による副作用や不確実性を回避できる可能性があります。
ほかにも、以下のような避妊方法が選択肢としてあげられます。
- 低用量ピル:正しく服用すれば高い避妊効果があり、月経痛の軽減などの効果も期待できる
- 子宮内避妊具(IUD):医師による挿入で長期間効果が持続し、高い避妊効果が期待できる
- コンドーム:正しく使用すれば高い避妊効果があり、性感染症の予防にも役立つ
低用量ピル(経口避妊薬)は、医師の指導のもとで正しく服用すれば高い避妊効果があり、月経痛の軽減や月経周期の安定化などの副次的な効果も期待できます。また、アフターピルと比較して含有するホルモン量が少ないため、体への負担が軽減されやすいです。
どの避妊法にも特徴やメリット・デメリットがあるため、自分の生活習慣や健康状態に合わせて最適な方法を医師と相談しながら選ぶことが大切です。
定期的な性生活がある場合は、アフターピルに頼るよりも計画的な避妊法を取り入れることで、心身の健康を守りながら安心した性生活を送れます。
アフターピルを入手できる場所とそれぞれの特徴

アフターピルは医師の処方が必要な医療用医薬品です。緊急時に備えて、どこでどのように医師の診察と処方を受けられるかを確認しておきましょう。
アフターピルの入手経路には主に二つの方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。自分の状況や緊急度に応じて適切な受診方法を選択すると、迅速かつ適切な緊急避妊につながります。
産婦人科などの医療機関で処方してもらう
産婦人科クリニックや病院の婦人科では、医師の診察を受けてアフターピルを処方してもらえます。
対面診療では、医師が直接症状や体調を確認できるため、個々の状況に合わせた適切な薬の選択が可能です。
医療機関でのアフターピル処方の大きな利点は、専門家による丁寧な説明と対応が受けられる点です。初めてアフターピルを使用する方や、副作用に不安がある方にとっては、直接医師に質問できる安心感があります。
また、他の婦人科疾患の有無も同時に確認できるため、避妊以外の健康管理にも役立ちます。
緊急性の高い状況では、まず電話で受診可能かどうかを確認してから訪問するとスムーズです。
オンライン診療で処方してもらう
近年、スマートフォンやパソコンを使ったオンライン診療サービスの普及により、自宅にいながら医師の診察を受け、アフターピルを処方してもらえるようになりました。時間や場所の制約を受けずに医師の診察を受けられる点がメリットです。
オンライン診療では、ビデオ通話やチャットを通じて医師の診察を受け、処方された薬剤が自宅に配送されます。オンライン診療のメリットは以下のとおりです。
- 多くのサービスでは夜間や休日も対応している
- 通院の時間や交通費が不要である
- 病院で人と会わなくて済むためプライバシーも守られる
サービスによっては当日配送や即日受け取りに対応しているところもあり、緊急性の高い避妊に対応できる場合があります。
ただし、オンライン診療には注意点もあります。対面診療と比べると、身体状態の詳細な確認ができないというデメリットもあります。
両方の入手方法を理解しておくことで、緊急時に迅速な対応が可能です。日頃から信頼できる産婦人科医を見つけておくか、緊急時に利用できるオンライン診療サービスを把握しておきましょう。
アフターピルに関するよくある質問

- アフターピルを服用しても妊娠する可能性はありますか?
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アフターピルは高い避妊効果が期待できますが、100%の効果を保証するものではありません。
服用のタイミングによって効果率が変わり、性交渉後24時間以内であれば約95%、48時間以内で約85%、72時間以内で約58%の効果があるとされています。
妊娠する可能性が高まる要因としては、以下の内容があげられます。
アフターピルを内服しても妊娠する可能性が上がる要因- 服用のタイミングが遅い
- 服用後の嘔吐や下痢による薬剤の吸収不良
すでに排卵が完了している場合や受精卵が着床している場合には、アフターピルの効果は期待できないとされています。
アフターピルは最後の手段として位置づけられるものであり、より確実な避妊を望む場合は、通常の避妊法(コンドームや低用量ピルなど)について医師に相談することが望ましいです。
- アフターピルを服用したら不妊になりやすいのでしょうか?
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「アフターピルを服用すると不妊になりやすい」という情報が流布していますが、現時点での医学的研究では支持されていません。
世界保健機関(WHO)や各国の産婦人科学会など、医学団体はアフターピルの使用と不妊との間に因果関係がないことを示しています。
アフターピルに含まれるホルモン成分は、服用後数日以内に体内から排出されるとされています。
一時的に排卵を遅らせたり、受精卵の着床を妨げたりする作用はありますが、効果は一過性であり、将来の生殖機能に永続的な影響を与えるという証拠は現在のところ見つかっていません。
- アフターピルを服用する際に注意すべきことは?
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アフターピルを内服する際の注意点は、一時的な副作用と完全な避妊効果が保証されない点です。
副作用としては、吐き気(一定割合の方に発現するとされている)、頭痛、めまい、疲労感、下腹部痛などが報告されています。症状は通常数日以内に自然に改善するとされています。
費用面でも通常の避妊法と比較すると高額になる場合があります。アフターピルは保険適用外のため、自己負担となります。定期的に使用する場合、経済的負担が大きくなる可能性があります。
定期的な避妊が必要な場合は、より安定した効果を持つ通常の避妊法について医師に相談することをおすすめします。
まとめ

現在の医学的知見によれば、アフターピルの服用と不妊の間に因果関係を示す証拠は見つかっていないとされています。
アフターピルは医師の処方のもとで使用される医薬品であり、性交渉後72時間以内(薬剤によっては120時間以内)に服用すれば避妊効果が期待できます。服用のタイミングが早いほど効果は高いですが、完全に妊娠を防ぐことを保証するものではありません。
アフターピルは緊急時の対応策として医師が処方するものであり、定期的な避妊法としては推奨されていません。
頻回の使用は副作用のリスクを高める可能性があるため、通常の性生活では低用量ピルやコンドームなど、より計画的な避妊法を医師と相談の上で活用することをおすすめします。
正確な知識を身につけると、不必要な不安を抱くことなく、自分の身体と将来について適切な判断ができるようになります。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の医薬品の使用を推奨するものではありません。医薬品の使用については必ず医師の指示に従ってください。